1999年 夏 (前編)
残暑とは言いながら最高気温が30度を越える日が続いております。皆様は如何お過ごしでしょうか。
今夏も第81回全国高等学校野球選手権大会に審判として開幕試合の青森山田 対 九州学院(熊本)、
決勝戦の桐生第一(群馬)対 岡山理大付属をはじめとして、合計6試合を担当して来ました。
1. 今年の選手宣誓(新潟明訓 今井主将)
「甲子園球場。野球というスポーツを愛する私たちにとって、何とこころに響く言葉なのでしょうか。1900年代最後の夏、私たち選手一同は今、
この甲子園に集うことができた喜びを噛みしめています。スタンドで応援してくれる控えの選手をはじめ、私たちの野球を支えてくれる全ての人達に感謝し、
暑い日もまた吹雪の日も気力で継続してきた練習を信じ、21世紀に大いなる希望をもって前進するために、全力でプレーすることをここに誓います。」
"我々選手一同は・・・"と絶叫していた頃にくらべると隔世の感があります。
現代の若者の表現力の豊かさに驚くと共に、"確かに1900年代最後の夏なんだなぁ"と感慨深いものがありました。
2. 幹事審判
高校野球ではグランドを担当する4人(ナイトゲームは外審に2人出て6人)の審判の他に幹事審判という制度があります。
場内放送席の隣にいて、公式記録員との連絡、グランド担当審判への指示などを行います。(具体的にどういうことをするかと言えば、
練習ボールがグランド内に入ったのを気づかずに試合を進めている場合の注意。難しいルール上の問題が起きた場合に場内説明をすることの指示などですが、
最大の目的はルールの適用に誤りのなきを期すということです)。
事の性質上、経験豊かな審判員が任に当たるのですが、数年前から私もこの役割を担当しています。
ところで私が幹事をしていた倉吉北(鳥取)対 静岡の試合でこういうことがありました。
倉吉北が代打を出したのですが、その旨の通告をせず(生徒で出来ることは自分達でするという趣旨から、高校野球では本人又は他の選手が
交替を告げることになっています。)球審も気づかずに打ちそうになりました。
慌てて球審に連絡し事なきを得ましたが、高校生は極度に緊張しているのでこういう間違いが起きるのです(中には"代打○○です。甘くして下さい"
といってくる猛者もいますが・・・)。
さて、ここで問題。
もしこの代打が告げないまま打ってしまったらどうなるでしょう。
(1)打撃行為は無効である
(2)守備側からアピール(攻撃側の規則に違反した行為を指摘してアウトを主張し、審判に承認を求める行為)
(3)打撃行為は有効である。
さあ皆さん考えて下さい。(回答は最後に)
3. 柏陵(千葉)の怪(?)
今大会は優勝投手の桐生第一の正田くんをはじめとして、樟南(鹿児島)の上野君、静岡の高木君、柏陵の清水君、福知山商業(京都)の藤原君、
青森山田の松野君など好投手が目立ちました。
このうち上野君、松野君を除いては全部左投手ですが、彼らに共通しているのは真中のストライクゾーンから低めに落ちるボールになる球を振らせる事です。
元巨人軍のショートでヤクルトや西武の監督をした広岡氏の話では"プロとアマの決定的な差は、低めのボールになる変化球を見極められるかどうかだ"
ということですが、高校生はワンバウンドする球も随分振っていました。
ところで私が球審をした柏陵対福知山商の試合(1時間39分の今大会最短試合)で不思議な事に気づきました。
柏陵の選手が打っているとき、1球事にグーとかパーを出し、それも手のひらを上にしたりしているのです。
はじめは判定に文句をつけているのかなと思ったのですが、完全なストライクにもその仕草をするので、どうも抗議ではなさそうです。
柏陵の試合を担当したどの球審もそうした経験をしたと言うので、皆でその解明を始めました。
結局はっきりしたことは分からなかったのですが、どうもストレートの時はグー、変化球の時はパー、手のひらを上にした時はアウトコース、
下にした時はインコースではなかろうかとの結論に達しました。
選手からこのサインを受けた監督の蒲原さんが逐一記録し(同監督は試合中、殆どメモをとっていました)、相手投手の投球パターンを検討しているようでした。
打者にサインを送らせることにより、最後まで投球を見る習慣をつけさせるとともに、相手を攻略する糸口を見つけることが目的のようですが、
これは全くの新戦法であり、ベテラン監督(蒲原さんは60歳)ならではの味わい深い採配です。
創意工夫すれば指導方法にまだ新しい道が開けるということでしょう。
4. 家族のアドバイスがちょっと効きすぎた話
開幕戦の審判が終わった日に家に電話をしました。
女房殿から家族全員の意見ということで"最後の校歌を歌っているとき、選手は嬉しそうにはつらつとしているのに、審判だけが神妙そうな顔をしているのは
おかしいわ。もう少し嬉しそうにはつらつとしていたら"と言われました。
"おお、そうか"と思い、次の日田林工(大分)と青森山田の試合では選手の背番号を見ながらニコニコしていたら、今度は"あんまりキョロキョロし過ぎよ。
もっとさりげなくしなきゃ"と娘に言われました。
仲々爽やかに笑うのも難しいことですが、審判の応援にわざわざ東京からきてくれたO氏はすぐにこれに気づかれて、「清水さん、最後の笑顔よかったよ」と
言ってくれました。
5. 正直な高校生に感謝感謝
甲子園は内野の観客席がグランドとほぼ同じ高さになっており、観客の服装が白い夏は、特に打球の出だしが見づらい事で有名ですが、
外野フェンスの上にも金網が張ってあって、打球がスタンドに入ってから跳ね返ってきた(これならホームラン)のか
フェンスに当たって跳ね返ってきた(これならフリー)のか誠に見分けにくいのです。
私が3塁審判をした樟南対都城(宮崎)の試合で樟南の4番青野君が打ったレフトへの弾丸ライナーがスタンドに入ったのかフェンスに当たったのか
全く分かりませんでした。
"えっどっちだ。"と思わず背筋が寒くなったのですが、都城のレフトの藤本君が跳ね返ったボールを全く追おうとしません。
彼の動きでああホームランだったのだと分かったのですが、彼が全力でボールを取り、内野に返球したら・・・と思い出しただけでもゾッとします。
何年か前にワンバウンドをホームランと判定してしまった審判がいましたが、今回の経験で、他人事ではない気がしました。